城南地区(1)

秋風や高井のていれぎ三津の鯛(正岡)子規

 西林寺は四国霊場第四八番札所。句碑は、高井町南組にあった石橋の石を再利用して建立したもの。文字は「寒山落木」巻四の自筆の拡大。昭和38年10月建立。
 この句は明治28年(一八九五)の作で、「故郷の蒪鱸くひたしといひし人もありとか」と前書きしてこの句がある。「蒪鱸」とは「蒪羹・鱸膾」の略で、「じゅんさい(蒪)の吸物と、すずき(鱸)のなます」のこと。昔、中国の晋の張翰が、秋風が吹きはじめると、故郷のこの料理が食べたくて退官して郷里に帰った故事による言葉。つまり「蒪鱸」とは望郷の心を表す言葉である。
 この句を作った明治28年、松山で病気療養中の子規は、10月19日早朝、三津の海岸から発って東京に帰り、それからずっと病床にあった。その子規の胸の中は、中国の張翰さながらに、蒪と鱸が、ていれぎと鯛にかわっても、故郷を思う情にかわりはなかった。

所在:松山市高井町(西林寺門前)

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