城下コース(10)

夏目漱石なつめそうせきの書簡碑

 拝呈出立の節は色々御厚意を蒙り奉万謝候 私事去る七日十一時発九日午後二時頃当地着仕候間乍憚御安意被下度候赴任後序を以て石川一男氏に面会致し早速貴意申述置候間左様御承知被下度候同君事ハ今回石川県に新設の中学校へ更任相成明日当地出発の筈に御座候小生就任来既に四名の教師は更迭と相成石川君も其一人に御座候何事も知らずに参りたる小生には余程奇体に思ハれ候 教授後未だ一週間に過ぎず候へども地方の中学の有様抔は東京に在って考ふる如き淡泊のものには無之小生如きハーミット的の人間は大に困却致す事も可有之と存候くだらぬ事に時を費やし思ふ様に勉強も出来ず且又過日御話の洋行費貯蓄の実行も出来ぬ様になりはせぬかと竊かに心配致居候先ハ右御報まで余ハ後便に譲り申候時下花紅柳緑の候謹んで師の健康を祈り申候  頓首
  四月十六日

金之助

神田先生
座右
(封筒)表

(封筒)裏

所在:松山市一番町三丁目(萬翠荘への途中左側)  ※ハーミットは隠者のこと

城下コース(10)番