城下コース(29)

寺清水西瓜も見えす秋老いぬ
我見しより久しきひよんの茂哉(正岡)子規

 「散策集」明治28年(一八九五)10月2日のところの末尾に、「薬師二句」としてこの句がある。散策集では「ひよんの木の実哉」となっているのを、後、句稿「寒山落木」では「ひよんの茂哉」として夏の句とした。
 「ひよんの木の実」とは「イスノキの虫癭」のこと。虫癭とは、植物に昆虫が寄生してできるこぶ状のもので、こぶの中が空洞になり風が吹き込むと「ひよん、ひよん」と鳴ることから、この名がついた。
 この地は子規少年時代からのなじみの地で、既に明治13年(一八八〇)の同親会詩鈔では、一四歳の子規が、「薬師に遊ぶ」と題して、「浴後筇を停めて暑を避くること長し 友と共に薬師の堂に到る詩を叩き酒を酌み佳興に乗ず 宴熟して帰り来れば夜気涼し」と、ませた七言絶句を作っている。
 ひよんの木は昔のままであるが、その南側にあった池は埋立てられて、西瓜を冷やした昔の面影は全くない。虚子も、「子供の頃、夏の暑い晩など、その清水を一と杓飲むのが楽しみで、兄夫婦に連れられてここへ来た記憶がある。」と言っている。

所在:松山市泉町(薬師寺)

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